2011 年度 大学院生支援プログラムより (4)|『大学院生調査研究レポート』

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2012.06.28|2011年度 |

2011 年度 大学院生支援プログラムより (4)

なるほど、人間と言うのは複雑なものです。 ~熱中症予防と情報についての研究~

昨年夏は全国的に「節電」ムードが高まりました。ムードというより、「日本が一丸となって」というほうが良いかもしれません。ところが、一生懸命節電した結果、熱中症になってしまう方々も激増し、マスコミ報道や日常会話では「熱中症予防」が挨拶のようになってしまいました。


今回の研究は、こうしたメディアの状況を一種の健康キャンペーンとみなし、日常会話との関連でどのように人々を動かしたのか?という課題に挑戦しています。

一部の結果を簡単にご紹介しますと、マスコミで熱中症予防の情報に触れた人が更に他の人とこの点について会話をすると、予防的行動をとることが少なくなりそうだ・・ということだそうです。


確かに、テレビで「熱中症でこんなに大変なことになっている!」「注意しましょう!」などの情報を得て不安な気持ちになっても、そのことについて人と話すと、話したことで満足してしまって不安が弱くなる、具体的な行動をしなくなる・・・などということは有りそうです。商品のキャンペーンなどとは違うなぁ(テレビで見た商品について、誰かと話すとますます欲しくなってしまって、つい買ってしまうなんてことは多いですよね)、人間はなんだか複雑だなぁという印象です。きちんとした研究結果は以下をお読みください。


論題:健康メディアキャンペーンと行動変容
     ―会話による個人規範の認知に着目して―

執筆:一橋大学大学院社会学研究科 佐藤直子さん


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1. 背景・問題設定(今回の調査を通じて知りたかったこと)

人々の健康行動に対してメディアは一定の役割を果たしています。健康に関する情報源として広く活用されているほか、個人が行動を起こすための手助けや地域での人と人のつながりを作ったり、特定の健康行動を正当化/非正当化することである一定の規範を作る役割をも担うと言われます。このメディアの効果については過去に膨大な研究成果が残されているものの、メディアへの接触がいかに人々の態度や行動を変化させるのか、というメカニズムやメディアへの接触によって誘発された「対人間の会話」の効果に着目した研究は多くありません。


このような研究の状況において、本調査は東日本大震災の発生によって高まった節電の機運を背景に、メディアなどを通じて広く呼びかけられた熱中症予防の行動に着目しました。 2011 年の夏に、熱中症予防がメディアなどを通じ広く呼びかけられた社会状況をメディアキャンペーンに類したものであると考え、それら熱中症予防情報への接触と、そこから誘発された人々の会話が熱中症予防行動の採用にどのような影響を与えているのか(もしくは与えていないのか)を明らかにすることを目的としました。さらに、人々の間の会話が行動採用に影響しているのであれば、その会話過程の認知が行動採用に影響している、という探索的な問いを立て、その検証を合わせて行いました。



2. 調査内容

日本全国に居住する15歳~81歳までの男女990人(平均年齢=42.51) に対して「熱中症に関する調査」と題するインターネット調査を実施(2011 年 12 月)。
*「2011年夏に熱中症予防について何らかの情報に接した」人のみを調査対象としました。



3. 調査結果・分析結果

先行研究をもとに下記の 2 つの仮説群を設定しました。前者(仮説1-1~1-3)はメディア接触と会話の、行動採用に対する影響を検討するものであり、後者(仮説2-1~2-3)は会話過程における規範認知の媒介効果を検討したものです。

 

  • 仮説 1-1: 熱中症予防に関するメディア接触と熱中症予防行動の間には正の関連がある。
  • 仮説 1-2: メディア接触を統制した場合においても、熱中症予防に関する会話は熱中症予防行動の採用の予測因となる。
  • 仮説 1-3: 熱中症予防行動に対するメディア接触の効果は、会話との交互作用効果と比較した場合、会話との交互作用効果によるものの方が大きい。
  • 仮説 2-1: メディア接触により誘発された会話と、行動の採用には有意な正の関連が確認される。
  • 仮説 2-2: メディア接触により誘発された会話は個人規範の認知と有意な正の関連がある。
  • 仮説 2-3: 仮説2-1の関連は個人規範の認知を媒介することで、効果が弱くなる。


4. 結論(分析から何が分かったか)

仮説 1-1, 1-2 の結果は共に先行研究と一致し、仮説を支持するものでしたが、仮説 1-3 については先行研究とは異なり、会話との交互作用効果の方が大きく、さらにその効果は負の方向へ確認されました。つまり、メディアに誘発された会話によって熱中症予防行動が抑制されていた可能性を示唆しています。
 

メディア接触と対人間の会話についての相互関係性を検討した Lee (2009) によると、メディアと対人ネットワークそれぞれのチャネルにおいて類似の情報が提供されている場合は、相互に補完的な情報が提供されている場合よりも片方のチャネルの効果を減じさせやすいといいます(代替効果)。また、この代替効果が生じる理由は、主にリスク対処の研究分野で用いられてきた「情報充足性」という概念によって説明されます。「リスクに対処するために必要とされる情報量の個人による評価」と定義されるこの概念は、ある人が必要とする情報量がどの程度であるかの“見積もり量”のことを表します。そして、その“見積もり量”と「現在有している情報の程度」とのギャップこそが、人を積極的な情報収集に至らしめるものだと言われるのです。このことは、片方のチャネルを通じて十分に情報が得られたと感じている場合には、情報充足性が満たされているため、もう片方のチャネルからの情報に対しては積極的な情報収集を行わないということも意味します。


昨夏の熱中症に関するメディア情報は、直接的な予防方策や、その必要性を暗示的に訴求する熱中症の被害状況の報道など、画一的・類似的な情報が比較的多かったように思われます。そのようなメディア環境の中で生じたメディアコミュニケーションと対人コミュニケーションは相互に代替効果が生じ、メディア接触 により誘発された会話が予防行動を抑制していたことが推測できます。


探索的に設定された仮説 2 は 2-1~2-3 全てが支持され、メディア接触により誘発された会話の効果が個人規範の認知に部分的に媒介され、行動採用に至ることを示しました。このことは、対人間の会話が、個人内での当該行動に対する規範の焦点化や、規範の解釈を促している可能性を示唆しています。会話過程における規範的影響の検討は、今後さらなる取り組みを必要とします。


以上の結果は、特にメディアキャンペーンの計画者や介入を担う実務担当者に対して次のような示唆を与えてくれます。


背景・問題設定で示してきたように、近年のメディアキャンペーン研究はメディア単独の行動変容への影響が限定的であるとして、メディアキャンペーンに伴う会話に着目し、研究の枠組みに盛り込まれる傾向にあります。このことは非明示的ではあるものの、会話が行動採用の予測因であり、会話が増加するほど行動採用の程度も増加する、という正の関係性が期待されているものであると言えます。しかし、本調査の結果によると、メディア接触と対人コミュニケーションとの間で代替効果が生じ、行動が抑制されるとの可能性が示されており、メディアキャンペーンの策定において、対人間の会話の扱い方に留意を促すものであると言えます。


なお、本調査による結果は一時点におけるクロスセクショナルデータに基づくものであるため、一般化にあたっては注意を必要とします。また、人々の行動変容を目的としたメディアキャンペーンにおける要素の 1 つ、メッセージング(内容)や意図せずにもたらされる結果などについて扱っていません。キャンペーンの策定段階を研究の枠内で扱うことと併せて、以上を今後の課題にしたいと思います。

 

以上


    

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